あの日のことは、よく覚えている。ワシは珍しく一匹で生家の土間に座り、夕飯を待っていた。そこへアライ家の母と末っ子がやって来た。
「子犬を頂きたいのですが…」とアライ家母。隣には喜びに顔を輝かせた末っ子がいた。
「じゃあ、この子あげます!」と、生家の母。ワシをポンと差し出した。呆気にとられたのはアライ家末っ子。
「え…」と絶句。
アライ家母は「いえ、この子ではなくて、あの小さい子犬が欲しいと言っているのですが…。」
何ぃ?ワシでは不満だと申すか?
すかさず 生家の母。「あの子はウチで飼うんですよ。」
ワシは末っ子に抱えられアライ家へ向かった。と、いっても徒歩二十秒とかからない距離なのだが…夕方の薄暗さも手伝って、とても切ない時間が流れた。
末っ子はワシが腕の中で少しウキウキしているのも知らず、溜め息混じりに 弟犬への未練をつらつら並べた。それを聞いていたアライ家母は、…やはり大人。ワシの魅力についてよく理解して、末っ子に言って聞かせた。
「ムクムクしてて、かわいいじゃん。」
真実だ。ムクムクぷくぷくしていたほうが、人間うけが良いのだ。かくしてワシはアライ家の一員となった。しかしワシへの、アライ家長女と末っ子の愛情はまだ不確かなものだった。
続く。
追伸。
ワシのタワゴトにお付き合いくださり、さらにお言葉をくだすった方のコメントの上に 飼い主よりの御礼の言葉を載せさせて頂きました。是非、読んで頂きたいと願っております。
明日もお達者でお過ごしくださいませ。